頼むから誰か俺と友達になってくんね?
浪人時代、自動式の便座に出便(しゅつべん)を阻まれたのは記憶に新しい。ソイツは人が来れば「やってるよ〜」と言わんばかりにすぐ蓋をご開帳してしまうヤツ。
だが、俺の時は違う。一度「やってるよ〜」と見せかけて「やってねえんだ、実は(笑)」と一度開けかけたその蓋を自ら閉める。俺はプライドが高い。もう一度個室に入り、ソイツが自らその下品な股を広げるよう仕向ける。
だが、開かない。
俺はこう見えても小中高と紛れもないエリートでした。誰も信じやせんでしょうけども、俺の存在を無視できるやつは誰一人としていやしませんでした。そして俺は今ここで知らしめる。内側から滲み出る気迫。もうね、泣いて許して下さいと言っても止められません。俺は回送車。振り上げた拳をおさめるに値する場所を見つけなきゃ満足せんのよ。
開かない。
産まれた時に「俺は産まれるべくして産まれた」とね、悟りました。北は頭から南は足先まで誰もがそう確信していた、と。口を動かせばスタンディングオベーション。手を動かせば株価が安定し、足を動かせば大地を揺るがす。地震の原因と言われ拘束された13の暮れ時、唖然とする両親、川沿いに生茂る雑草の中に投げ捨てられた囲碁盤、煩雑な手続きとそれにいつまでも縛られ続ける人類とそれに気付かない、気付いていないフリを続ける俺達。表面をなぞるだけで全て終わったかのような扱いをする…と。苦い夏になっちゃったな…。いつまでもレクリエーションの気分で生きてきたし、これでいいんだって。家族と電化製品店に出向いて利器に首を垂れながらも心は確かにそこに存在してて、でもいつまで経っても奥底から充足されるような出来事なんて起こらなくて…こんな受動的な俺を許してくれ、母ちゃん。
開かない。
隣の個室が空いたのでそっちに移動しました。
移動した便座が人肌でヌクヌクしていました。僕が唯一人肌を感じれる瞬間、それは人が便をした後に仄かに感じる便座のヌクモリティでした…。
ちょっと香ばしい臭いがするけれど、錆び付いて上手く作動しない歯車に潤滑油が差し込まれる。そして少しずつ、歯車は元の運動を開始する。快活な表情。それは、きっと心地よいこと。心地よいことは求めたい。だから、座る。尤物というのは時に人よりも劣っているように見えがちです。
一通りを終えたら、ゆっくりと個室から出て行く。僕は膝に頬杖をつきながら大便をする癖が昔からあるので長時間、大便をしていると大体足が痺れます。そして足を痺れさせながらトイレから出てくるので、“捕獲の頃合い“と呼ばれていたり呼ばれていなかったり。寧ろ呼んでくれて良かった、な。あの時なら。
「じゃあ、そもそも何で便座に温もりを求めるのかって話。」
急に関暁夫が出ましたけどもね、こんな不毛な話で出てほしくないんですけどもね
「始まっちゃってるのよ、人間選別」
始まってねえよ
「これからの時代、“ちょっと香ばしい人肌”が先行して二足歩行する哺乳類を引っ張るんだよね」
関暁夫はそんなこと言わないし人間のことを“二足歩行する哺乳類”とか呼ばないだろ
「信じるな」
誰も信じねえよ
「関暁夫が人肌に執着することはないのよ、ほな、他に何か言ってなかったか〜?」
次はミルクボーイが出てきたけどもね、一体どうなってるんですかね、ここは
「オカンが言うには、サイコロの1の目をずっと“ピンク”だと主張し続けてたんやけどな?先日、喉がイってしまってもう二度と喋れなくなってしまったらしいわ」
この世にいていい訳ないだろそんなやつ
「う〜ん」
「ほな、関暁夫か〜…その特徴は紛れもなく関暁夫やな〜。関暁夫はな、頭ん中にマイクロチップ埋め込んでからというものな、体の至る所がバグり始めてんのよ、今となってはもう咽喉が90°曲がってもう一生、使い物になれへんのよ。間違いないわ、それはもう関暁夫やわ。」
…
…
浪人するとこんな風呂敷広げ始めるからなっちゃいけないししまってくれる友人もいねえって、まさに泣きっ面に蜂という訳
ちなみに泣いてねえから蜂が俺の面を貫いてるだけ、普通に事件
以上